ウェスタンブロットの手順
Western Blot (Western Blotting)
ウェスタンブロット(ウエスタンブロッティング)とはタンパク質の電気泳動後に抗体を用いて目的のタンパク質を検出する手法です。
→タンパク質ゲル電気泳動(SDS-PAGE)の手順は「Tips vol.1」をご覧下さい。
ウェスタンブロットはウエット転写とセミドライ転写を選択できます。一般的にセミドライ転写はウェット転写に対して「転写バッファーが少量」の利点を持ちますが、「転写効率の低下」「タンパク質の加熱」の課題があります。
当社のAllViewPAGE Bufferを用いることでセミドライ転写でも効率よく転写できます。
ストリッピングを行うことで抗体をタンパク質から乖離させ、同じメンブレンを別の抗体で検出することができます。これをリプローブと呼びます。
準備する試薬
<電気泳動後のポリアクリルアミドゲル>
-
タンパク質ゲル電気泳動(SDS-PAGE)の手順は「Tips vol.1」をご覧下さい。
<転写バッファー / Towbin Buffer / Transfer Buffer (ウェットの場合)>
-
25 mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane, 192 mM Glycine, 20% (v/v) Methanol
<転写バッファー(セミドライの場合)>
-
48 mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane, 39 mM Glycine, 0.04% (w/v) SDS, 20% (v/v) Methanol
メタノールはタンパク質とメンブレンの吸着を高めるが、ゲルからのタンパク質溶出を妨げるため、20%を基本に濃度を調節するとよい。
SDSはゲルからのタンパク質溶出を促進する。一方でメンブレンへの吸着を妨げるため、終濃度0~0.1%(w/v)で調節する。
転写バッファーのpHの調整は不要だが、タンパク質の種類によって必要となることがある。
<ブロッキング剤>
-
Skim Milk, Bovine Serum Albumin (BSA)など
初めて使用する抗体は製品説明書記載の推奨ブロッキング剤・バッファーを使用すること。
<TBS-T (Tris Buffered Saline with Tween-20)>
-
50 mM Tris-HCl Buffer pH7.6, 150 mM NaCl, 0.05% Tween-20
<抗体>
-
1次抗体:目的タンパク質に対する抗体
-
2次抗体:1次抗体に結合する抗体・検出部を持つ
ウェスタンブロットの使用実績がある抗体を選択するとよい。
1次抗体に検出部がある場合は2次抗体は不要。
<検出試薬・機器>
-
化学発光の場合:Chemiluminescent検出試薬(ECL:Enhanced Chemiluminescenceなど)、イメージャー(発光)
-
蛍光検出の場合:イメージャー(蛍光)
-
比色検出の場合:比色検出用の呈色試薬
比色検出の場合リプローブはできない
Optional
<ポンソーS染色用 各種溶液>
-
染色液:0.2% (w/v) Ponceau S (CAS RN® 6226-79-5), 30% TCA, 30% (w/v) sulfosalicylic acid
-
洗浄液:1% Acetic Acid
-
脱色液:0. 1M NaOH
<ストリッピングバッファー>
-
強解離性:2% (w/v) SDS, 100 mM Tris-HCl Buffer pH6.8, 100 mM ß-mercaptoethanol
-
弱解離性:15% (w/v) glycine, 1% (w/v) SDS, 1% (v/v) Tween 20, pH2.2
必要な器具
-
濾紙:6~8枚程度
-
転写膜:PVDFメンブレン、またはニトロセルロースメンブレン
-
パワーサプライ
-
メンブレン振盪用トレイ・容器など
-
ハイブリダイゼーションバッグ、またはプラスチック製カードスリーブなど、メンブレンを挟むもの
-
ウェットトランスファー器具一式(ブロッティングバス、カセット、スポンジ、ブロッティングバスが入る容器)、またはセミドライトランスファー器具一式
各転写膜には下記の特長がある。極稀に一方の膜にしか保持できないタンパク質がある。
ニトロセルロースメンブレン:安価・親水処理が不要・破れやすい・リプローブに適さない
PVDFメンブレン:高価・親水処理が必要・破れにくい・リプローブに適する・高いタンパク質結合能
試薬の調製
手順
①-1 転写のセッティング(ウェットトランスファー)
-
PVDFメンブレンの場合はメンブレンをメタノールに浸す(活性化)
-
水をはじかなくなるまでメンブレンを転写バッファーに浸す(平衡化)
-
ゲル、ろ紙、スポンジ、を転写バッファーに浸す
-
大きめの容器に転写バッファーを入れ、以下の順序で素材を重ね、カセットのセッティングを行う。
—カセット陰極側—
・スポンジ
・濾紙3~4枚
・ゲル
・メンブレン
・濾紙3~4枚
・スポンジ
—カセット陽極側— -
ブロッティング槽にカセットをセットし、転写バッファーで満たす
-
冷却装置がない場合は、ブロッティング槽をさらに一回り大きい容器に入れ、容器に氷を入れて冷やす
①-2 転写のセッティング(セミドライトランスファー)
-
PVDFメンブレンの場合はメンブレンをメタノールに浸す(活性化)
-
水をはじかなくなるまでメンブレンを転写バッファー(セミドライ)に浸す(平衡化)
-
ゲル、ろ紙を転写バッファー(セミドライ)に浸す
-
電極の向きに注意しながらセミドライ転写装置に以下の順序で素材を重ね、セッティングを行う。
—陰極側—
・濾紙3~4枚
・ゲル
・メンブレン
・濾紙3~4枚
—陽極側— -
余分なバッファーを軽く押し出し、ふき取っておく
メタノールによるPVDFメンブレンの活性化は極めて速いため、メタノールで濡れる程度で十分。
平衡化以降はメンブレンを乾かさない。
メンブレンやゲルを重ねるとき気泡が入らないように注意する。
②転写
-
下記の設定で転写を行う(目的タンパク質、分子量、ゲル濃度、装置によって調整する)
ウェットトランスファー:定電圧100 V, 1 h
セミドライトランスファー:定電流2 mA/cm2, 1 h -
解体してメンブレンを取り出す
一般的に高分子量タンパク質の転写には時間がかかるが、高電圧・高電流にすることで転写時間を短縮することができる。しかし低分子量のタンパク質は高電圧・高電流にすることでメンブレンを通過してしまうので注意が必要。また熱が多く発生するため、セミドライでは乾燥に注意する。
ウェットトランスファーの場合、低電圧でO/N転写する他に、高電圧で転写を終えそのままO/Nすることもできる。
着色マーカーや脱色可能な着色剤ポンソーS溶液を用いることでタンパク質の転写・トラブルを大まかに確認することができる(行程⑧)。
オススメ!
分子量ごとの転写度合い確認・メンブレン撮影時のマーカー視認に便利な着色済みマーカーは コチラ!
AllView PAGE Bufferなら6%ゲルでワイドに分離(230~8kDaまで)できるため、転写ムラを抑えることができます
-
使用する抗体に最適なブロッキングバッファーを入れたトレイにメンブレンを移動し、40 min振盪する
-
振盪中に1次抗体をバッファーで希釈しておく
※抗体説明書に記載のバッファーに対して、同じく製品説明書記載の希釈率で希釈することを推奨 -
トレイのブロッキングバッファーを捨てた後、TBS-Tをいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計3回繰り返す
メンブレンはタンパク質の吸着面(ゲルと接触していた面)を上向きにする。
メンブレンは表面張力でトレイに張り付くため、デカンテーションでバッファー交換が可能。
④1次抗体反応
-
トレイのTBS-Tを捨てた後、希釈した1次抗体溶液をいれてr.t., 1 hまたは4℃, O/Nで振盪する
-
バッファー交換前に2次抗体を適切なバッファーで希釈しておく
※抗体説明書に記載のバッファーに対して、同じく製品説明書記載の希釈率で希釈することを推奨
※2次抗体を使用しない場合は「3.の洗浄操作」のみ行い、行程⑥に進む -
トレイの溶液を捨てた後、TBS-Tをいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計3回繰り返す
抗体の性能に依存するが、1次抗体との反応は4℃で終夜振盪した方がきれいな結果が得られることが多い。
⑤2次抗体反応
-
トレイのTBS-Tを捨てた後、希釈した2次抗体溶液をいれて1 h振盪する
-
トレイの溶液を捨てた後、TBS-Tをいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計3回繰り返す
⑥検出
-
検出試薬の手順に従ってメンブレンを処理する
-
ハイブリダイゼーションバッグやカードスリーブなどにメンブレンを挟み、検出器で検出する
⑦-1 ストリッピング(強力)–Optional–
-
メンブレンの入ったトレイにTBS-Tにいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計3回繰り返す
-
ストリッピングバッファー(強力)を50℃に加熱し、メンブレンを入れて50℃で30 minインキュベートする
-
メンブレンを別のトレイに移した後、TBS-Tをいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計5回繰り返す
-
ブロッキング(行程③)に戻る
⑦-2 ストリッピング(マイルド)–Optional–
-
メンブレンの入ったトレイにTBS-Tにいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計3回繰り返す
-
トレイの溶液を捨てた後、ストリッピングバッファー(マイルド)を入れて10 min振盪する
-
トレイの溶液を捨てた後、TBS-Tをいれて5 min振盪する。TBS-Tを交換して合計5回繰り返す
-
ブロッキング(行程③)に戻る
ストリッピング後に行程③→行程⑤→行程⑥を行うことで、1次抗体が十分にがれたか確認することができる。
リプローブでは生物種の由来の異なる抗体を用いることで非特異的検出のリスクを下げることができる。
-
メンブレンをポンソーS溶液で着色するまで振盪する
-
1%酢酸水溶液で洗浄する
-
得られたメンブレンを記録する
-
0.1 M 水酸化ナトリウム水溶液でメンブレンが脱色するまで振盪する
-
超純粋で洗浄し、ブロッキング(行程③)に戻る
転写確認工程の場合、またはリプローブする場合はメンブレンを乾燥させてはならない。
オススメ!
ウェスタンブロットより短時間で定量性が高い / ELISAより簡単
任意の抗体でタンパク質を測定できる 洗浄不要のイムノアッセイ構築キット
ONEPot Immunoassay Kit <OpenGUS Method>
…実験お役立ち情報…
実験に役⽴つTIPSや基本情報をご提供します